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ボロ邸生活日記

ボロ邸生活日記

P.E2097 -K-  .1

 神野真人の反乱が始まってから2年が経過していた。
 クリーチャーと核の炎から逃れた人々は地下に巨大なシェルターを築き、新たな居住区とした。
 戦争の混乱で失われた物も多かったが、それでも、この地下都市はかつての地上と同じ生活感を持っていた。
 そう、こんな時勢でもN.Yジオフロントの中央街は週末の賑わいを見せていた。
 行き交う人々には笑顔があり、ほんの少しの時間でも地上で起こっている悲劇を忘れようとしているようだ。
 そんな人々の中で、ただ一人町に溶け込まない少年が居た。
 年の頃は10才になるかならないかと見える彼は、黒髪に茶色の眼で、東洋風の顔立ちをしていた。
 それだけでもこの都市においては珍しいが、少年をさらに他と区別しているのはその耳と尻尾だった。
 彼はフェリスに区分されるヒューマノイドである。地上の惨劇をもたらしたと考えられているA.L.Tに対する風当たりは厳しく、こうして歩いている今も彼は罵声を浴びせられ、石を投げられていた。
 彼は顔に向け投げられた石を、軽く首を傾げて避けると、何事も無かったかのように歩き続けた。
 ――こんなことはもう、慣れっこになってしまった。
 いつかの傷で途中から折れ曲がってしまった尻尾を見て思う。
 彼には家族は居ない。唯一血の繋がっている人間も、父、母とは決して呼べないただの遺伝子提供者だった。
 もちろん、その人の顔など見たことも無い。
 この街に来る前のことなど殆ど忘れてしまったが、別に思い出そうとは思わない。
 何より、彼自身がこの孤独な生活を望んでいたのだから。
 だから――堂々としていればいい。
 他人が何を言おうが、それは関係ない。誰かのために気を使うなんてことより、よほどいい……
 「今晩は、おチビさん」
 「え――?」


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